楽しいから笑う、それとも笑うから楽しい?
「誰かの笑顔をみるのは心地よい」これは世界共通の心理だろう。
笑顔の素敵な人は皆に好感をもたれる。
「脳には妙なクセがある」(池谷裕二著)に「笑顔」についての面白いエピソードが紹介されている。
心理学の分野では「楽しい」という感情が問題解決を容易にしたり、記憶力や集中力を高めることが確認されているという。
さらに、最近の研究では「笑顔をつくる」行為そのものによい心理効果があることがわかってきた。
実際の感情とは関係なしに、笑顔と同じような表情を作るだけでドーパミン系の神経活動が活発になり「楽しくなる」らしいのだ。
「ドーパミン」は比較的よく耳にする言葉だ。
漠然と「やる気を起こす物質」ぐらいに認識していたが、この機会に検索してみた。
それによると、脳内でドーパミンが分泌されると人は「何か重要なことが起きそうだ」と感じ取って行動に備える(やる気を出す)のだという。
話を元に戻すと、強制的に笑顔に近い表情(ここでは口角の上がった表情)を作った状態でマンガを読むと、普通の表情で同じマンガを読んだ時よりも面白いと感じるらしい。
またこれとは別に、被験者の顔の筋肉をマヒさせた状態にすると、相手の表情から感情を読み取る能力が低下するという。
これは「人は無意識のうちに相手の表情を模倣しながら、相手の感情を解釈している」ためらしい。
つまり、人間が相手の感情を理解するには下記のプロセスが必要らしいのだ。
(1)相手が笑っている。
(2)相手の表情をまねしてみる。(無意識のうちに)
(3)表情をまねして笑顔をつくると「楽しい、うれしい」という感情が湧いてくる。
(4)この結果をもとに、相手の感情を判定する。
相手が笑っていれば「楽しいんだな」、泣いていれば「悲しいんだな」と思うのは自明のようだが、実はそれほど話は単純でなく上記のプロセスを経た結果なのだという。
この話を聞いて、むかしテレビのドキュメンタリー番組で、脳の海馬だけが機能を失う難病を特集していたのを思い出した。
その病気にかかると知能に変化見られないのだが、相手の表情から感情を読み取ることが全くできなくなるということだった。
患者の前に人間の顔写真「笑った顔、怒った顔、悲しい顔、びっくりした顔」(実験用に表情を誇張してある)を並べて見せて、
「この人は今どのような気持ちだと思いますか?」と質問するのと、まったく見当はずれ(と通常は思われる)答えをしてしまう。
ジェットコースターで絶叫している顔写真を見て「楽しいのかな?笑っているのかな?」といった具合だ。
この病気にかかると正常な人間関係を維持することが困難になり、患者が孤立してしまうという。
人間は顔の表情筋が他の動物に比べてとても発達している。
人間はお互いの表情を読み取ることで相互理解をはかり信頼関係を築いているのだろう。
「顔色をうかがう」という言葉にはマイナスのイメージがあるが、相手の気持ちを読みとる能力のおかげで、人間は他の動物よりも複雑な社会を構築できたのかもしれない。
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